ベトナムの「いただきます」文化

ベトナムにいると、ベトナム人に食事を振舞われる機会があるかもしれません。食べる前に「いただきます」と言うのは、日本人にとって礼儀の1つとされていますが、ベトナムではどうなっているのでしょうか。今回はベトナム人の「いただきます」文化について紹介します。

意味が異なる「いただきます」

まず「いただきます」の示すところは、日本語とベトナム語では意味合いが根本的に異なります。日本語の場合は作ってくれた人に対して、あるいは自分に生命を提供してくれた食物に対する感謝の意味がありますが、ベトナム語では一緒にご飯を食べる人への促しの意味合いが強くなります。ベトナム語では「主語(私) mời 相手 ăn」や「Xin mời ăn(シンモイアン)」といった表現がされ、直訳すると「どうぞ召し上がってください」という形がしっくりきます。日本の場合は1人で食べる時でも「いただきます」と言うことがあるのに対し、ベトナムでは1人で食べる時には「主語(私) mời 相手ăn」 や「Xin mời ăn」を言わないことからも意味合いが異なることが分かります。

大家族の年少者は大変

ベトナム語の「いただきます」は前述の通り、人に食べることを促す言葉なので、礼儀の観点で年少者は目上の人にそのフレーズを言ってから食べ始めることが良いとされています。なので大家族の場合、最年少者は祖父母、親、兄弟など自分が食べる前に促さなければならない相手がたくさんいるため、1人ずつその声かけをするのは大変です。日常で都度これを徹底させる家庭はそう多くないと思いますが、これも家庭で教える食事儀礼の大切な躾となっています。

「ごちそうさま」は?

一方「ごちそうさま」は、ベトナムでは食べ終わった際に決まって言われるフレーズはありません。実際のやり取りでは「おいしい食事をありがとう」とか「もうお腹いっぱいです」といったやり取りがよく聞かれますが、いずれにしても礼儀として言われるようなものではありません。ただ他の人がまだ食べている最中に自分が先に食べ終わって席を外す場合、「いただきます」のフレーズと同様に「Xin mời ăn」と断りを入れるのが礼儀正しいとされています。ベトナムでは食事の始め、終わりどちらも相手に食べることを促すのが礼儀であり、食事は誰かと一緒に摂るものだという文化が背景にあることがうかがえます。

著者

稲田 琢磨

SESSA VIETNAM CO.,LTD代表

プロフィール

ベトナムで7年ほど人材関連の仕事に従事し、2021年人事コンサルティング会社SESSA VIETNAMを企業。「人材紹介」「人事労務相談」「労働許可書取得代行」などのサービスを中心に企業、求職者向けの人事コンサルティングを展開。
日常でベトナム人を観察しながらベトナムの「なぜ・なに」を考えるのが日課となっている。座右の銘は「為せば成る、なるようになる」
【公式HP】https://www.sessa-jp.com

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